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『群青の夜の羽毛布』(山本文緒/文芸春秋/文春文庫)

丘の上の家でひっそりと暮らす不思議な女性・さとるに惹かれていく大学生の鉄男。しかし次第に、母親に怯え、他人とうまくつきあえない不安定な彼女の姿に疑問を募らせていく。母娘三人の憎悪が噴出するときに見えてくる、戦慄の情景とは――。恋愛の先にある家族の濃い闇を描いて、読者の熱狂的支持を受け続ける傑作長編小説。

 24歳にさとるは、近所のスーパーで出会った鉄男と付き合いだした。さとるは現在仕事をせずに、家事手伝いという身分である。折角入学した大学は、中退してしまった。母と妹のみつるが働いているこの家で、一人で家事を担っていた。
 さとるは鉄男をスーパーで「拾った」と思っている。週に数度通うスーパーで、鉄男は酒売り場でバイトしていた。たまにビールを買いに行ったり、料理酒を買いに行ったりすると、鉄男はサービスでおまけをつけてくれるようになった。ある日体調を崩したさとるがスーパーのベンチでへたり込んでいたところを鉄男が見つけ、家まで送っていたのがきっかけだった。数度のデートを重ね、夏のデートでホテルに入り、行為の後に二人は寝てしまう。そこで鉄夫はさとるの家の門限が10時であり、それをさとるがきちんと守っていることに驚く。
 さとるの妹のみつるは、同じ環境で育ったが性格が全く違っていた。さとると同じように母の言いつけを守り、門限を守っているが、そこは要領良く夜中に抜け出したりしている。それで、サマディという朝までやっている居酒屋で合流したりしていた。(ラストで分かることだが、父と母の出会いも同じようなものだった。大学の学食で働いていた父が、いつもラーメンかカレーしか食べない大学生の母に少しずつおまけをサービスしたのが馴れ初めであった)
 ある日のデートで運転中に眠くなってしまい、事故を起こす。警察や病院を回り、タクシーで家へ着いたのは11時前だった。玄関に母親が出てきて、さとるを何度も殴る。母親は鉄男に「来週また来なさい」と告げ、玄関を固く閉ざした。玄関からも母親がさとるを折檻する音とさとるの泣き声が聞こえていたが、決してドアは開かなかった。
 言われた通りに鉄男が翌週にさとるの家へ行くと、母親が出迎えた。母親は意外と友好的に感じた。母親は「さとるは世間を知らなさすぎる。だから鉄男にさとるをもっと世間を教えてやってほしい」と頼む。その後母親・さとる・みつると共に夕飯を食べるが、誰も喋ろうとはせず、黙々と食事を摂っていく。そして母親に言われ、泊っていくことになった。けれど、夜は早々にさとるの部屋に閉じ込められてような格好になり、さとるはリビングで寝るし、暇を持て余したまま眠ってしまう。夜中にさとるが部屋にやってきて、鉄男を誘う。鉄男はさとるに「この家に閉じこもっててはいけない。この家を出ないといけない」と話す。けれどさとるにはその自信は持てなかった。
 さとるは月に一度医者をはしごする。それは睡眠薬をもらうためだった。さとるの家で薬を飲まずに眠れるのはみつるだけだった。こんな生活を打開するためにも、さとるは鉄男と結婚しなければならなかった。仕事をしていないさとる。それならば、誰か稼いでくる人をみつけなければならない。しかも、さとるの家に入れなければならない。それにはどうすればよいか。母親は「鉄男に自分がいなければならないと思わせろ」と言う。お見合いさせられるという嘘をついても効果的かもしれない。母親は更に言い募る。「折角勉強ができて、良い大学に入ったのに、それを辞めては意味がない。ならば、結婚しかない。さとるのような女と結婚してくれるような人は鉄男しかいない。だから鉄男を逃すな。」それを聞いていたみつるが話に入ってきて、大喧嘩になる。さとるがアイロンをかけながら話していたこともあり、それで火傷をしてしまう。間の悪いことに、そこに入ってきたのが鉄男だった。鉄男はたまたま帰省していたお土産を置きに来たのだが、喧嘩を目撃してしまった。すぐに救急車を呼んで、さとるは運ばれた。さとるは火傷よりも貧血がひどいということで、一晩入院することになった。それで、母親と鉄男は共にタクシーに乗って帰る。そのタクシーの車中で、鉄男は母親の弱った部分を見て、一緒に鉄男の部屋へ行き、一晩中セックスしてしまう。どうしてか、という疑問を持ったのは、全てが終わった後だった。
 母親から翌日にさとるを迎えに行くように言われていたので、鉄男はさとるの病院へ向かった。だが前日に母親とセックスしたこともあり、かなり迷いながらだった。さとると共にさとるの自宅へ帰り、鉄男はそこでさとるから様々な告白を受ける。生理がずっとないこと、電車にもバスにもタクシーにも一人で乗れないこと。それで大学も辞めたこと。鉄男はそれを聞いて、さとるを見捨てることはできないと思い、「結婚しよう」と言った。さとるは「この家で一緒に住んで欲しい」と言うが、鉄男はそれを断った。その時、さとると鉄男の他には誰もいないはずの家から何か物音がした。するとさとるは立ちあがり、食事の準備をしてどこかに運ぼうとする。鉄男がさとるについていくと、そこには父親がいた。小太りで無精髭を生やし、腐臭をまとった男。明らかに正常ではないと見える父親。さとるによると、父親がおかしくなったのは4年ほど前だった。会社を辞めて自宅にこもり、言動はおかしくなり時々奇声を発するようになった。それを告げるとさとるは睡眠薬を飲み、鉄男の目の前でソファに横になり寝てしまった。鉄男は仕方なく駅へ向かい、みつるか母親が帰ってくるのを待った。話が聞きたかったからだ。そして先に最寄駅へたどり着いたのは、母親だった。
 母親と鉄男はサマディへ向かい、そこで鉄男は話を切り出した。どうして父親をあのままにしておくのか。母親は「確かに父親はおかしい。けれど、病院へ連れて行ってもそこでは正常に対応するのだ。入院させても勝手に帰ってきてしまう。最初は狂ったフリをしているのかと思ったが、今ではトイレにも行けずに垂れ流してしまう。全て私のせいだというのか。全てが母親のせいだと言うなら、私のはは、そして祖母のせいになるではないか」鉄男はそれに反論できなくなってしまう。父親の世話は、他人である母親の仕事ではなく血のつながった娘であるさとるの仕事である。これも母親の弁である。母親は鉄男に、「さとるが好きなら結婚してもいいけれど、うちから仕事に通いなさい。でないなら、結婚はできないと思え」と。しかし鉄男は嘘をついていた。鉄男は卒業後に故郷に戻り家業を継ぐつもりだった。それを告げると母親は飲んでいたコップをそのまま鉄男の頭の上でひっくり返した。そして、何も言わずに店を出て行った。
 その頃さとるは父親の部屋にいた。父親の近くで今までのことを思い出していた。昔から怖い母親だった。父はそんな母に頭が上がらず、言いなりになっていた。しかし、さとるが母親から怒られた時には避難場所でもあったのだ。しかし父親は段々卑屈になっていった。給料が安いことや、昇進できないことを母親に責められた。何とか買った家も、組んだローンがきつく、母親が働きに出るようになった。それはまたもや母親が強くなるという意味だった。そんなある日、父親が朝食の最中に三人に告げたのだった。自分には愛人がいる。その女性と暮らしたいから、離婚して欲しいと。母は興信所を使って愛人のことを調べた。すると愛人がさとると同じ年だとわかった。娘すら愛してくれないのに、どうして他人を愛せるのか。さとると母親は行動に出た。まずは愛人宅に押しかけ、復讐した。私たちはあなたを訴え、損害賠償を請求することができる。父親の女性問題はこれで三度目だ。いつも我々が処理するのだ。その三日後、愛人の女性は自殺未遂を起こした。そして故郷へ帰って行った。母はそれについて何も言わなかったが、さとるはそれから怖くて布団から出られなかった。だからせめてもの罪滅ぼしで、さとるは父の世話をするのだった。
 白衣を着たさとるを、父はカウンセラーだと勘違いして何でも話してくれるようになった。家族をどう思っているか、母をどうおもっているか。その中で父がずっと家にいることが復讐だと分かった。父は狂ってはいなかった。けれど復讐のためにずっとこの家にいつづけるつもりでいた。そうすることで自分たちがやったことの罪深さを思い知らせてやるのだ。
 それから数日後、さとるは母にお見合いをするように言われた。鉄男が故郷に帰ること、鉄男を寝たこと。それを聞いたさとるはとっさに母親に向かってスリッパを投げていた。そこから取っ組み合いの喧嘩になり、「もうこんな家に帰ってくるもんか」と啖呵を切って家を出た。しかし、家を出たところで行くところはないのだ。それに気付いてももう遅い。拾った10円玉で鉄男の家に電話してみたが、鉄男は留守だった。それでさとるはサマディに行ってみた。初めてそんなところに足を踏み入れた。そこには笑っている鉄男がいた。あの笑顔は自分だけのものではなかったのだ。鉄男が自分を愛してくれるはずなかったのだ。やはり母の言うように遊ばれていたのだ。もう帰るところは自分の家しかない。
 さとるは玄関から入ることができなかった。怖かったのだ。それで、父の部屋から入ることにした。みつるが夜中に部屋を抜け出す時に使っていたのを知っていたからだ。父を見るとさとるを憎悪が襲った。全てこの男が悪いような気がした。さとるはストーブから灯油を出し、父の布団にかけた。そしてマッチを探していると、父が「ここにあるよ、火をつけてあげよう」と言ってライターで火をつけた。火はすぐに父の体を炎で包んだ。父の絶叫、さとるの悲鳴……。
 鉄男が自宅へ戻り、さとるからの留守電を聞いてこの家にたどり着いた時には、家が半焼した後だった。みつるはさとるを捜しに出ていて無事だった。父と母は火傷がひどく、重体だった。さとるはあちこちから皮膚を移植し、痕は残るだろうが、命は無事である。鉄男はさとるを連れて故郷に戻るつもりでいた。もう家は燃えてしまった。つなぎとめるものはなくなったのだ。
by apple_and_c | 2012-02-25 00:14 | 小説 処分
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本が増えすぎたので、読み返して厳選します。


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