『晩年の子供』(山田詠美/講談社/講談社文庫)
短編集。夏・子供をモチーフにした8編。
「晩年の子供」
主人公の私は子供の頃、伯母の家で飼われていた犬に手を噛まれたことに起因する。その直後、テレビで「犬に噛まれると、狂犬病にかかり、半年ほどで死亡する」という事実(主人公にとっての)を知る。それで私は、その後半年間を死ぬ覚悟をもって過ごした。が、ある日飼い犬は狂犬病の予防注射をしているので、噛まれてもかからないと分かり、明るい学校生活を過ごすことにした。
「堤防」
子供の頃に海に手招きされているような気がして、それに逆らわずにいたら堤防から海に落ちた主人公。彼女はすべてを運命だとして受け入れていた。が、友達の京子が不倫の末に妊娠し、しかも自殺未遂した。そのお見舞いに訪れた主人公は、「堤防から落ちるのは、海側か道路側か選ぶのは自分」と言われる。自分は堤防から運命のように落ちたけれども、お見舞いに来るときは走ってしまったと、憮然とした。
「花火」
一流大学を出て、一流企業に勤めたのに、あっさりとそれを捨ててホステスになった姉。そうはなるまいと、地元の大学の教育学部に通う妹。妹は両親に、「姉が東京でどんな生活をしているのか偵察してこい」と言われる。言われるがままに行ってみると、姉は目を疑うような豪華なマンションに住んでいた。そうやら現在交際中の男性からの援助があるらしい。そしてその夜、姉妹と姉の彼氏との三人で姉のマンションに泊まるが、姉とその彼氏はセックスを始めてしまう。自宅へ帰り、恋人と初めて体を重ねる。が、そこで初めて姉のような声を出していた。そして恋人を喜ばせている、その演技に自分でも驚いた。
「桔梗」
7歳の主人公の隣の家の裏には小川が流れていた。そして、小川で繋がる隣の家には、お姉さんが住んでいた。それは母と同じ年齢の女性らしい。しかも出戻りだと母は言う。時々男性が会いに来ているような、隠微な空気を見たが、それが何を意味すうるものなのかは分からなかった。そしてそのお姉さんは、寝たきりの祖父よりも早く、自殺して死んでしまった。
「海の方の子」
ませた子供である主人公が、何度目かの転校で訪れた田舎町。そこには、「海の方から学校に通っている」男の子がいた。彼は目が義眼であり、皆から避けられているようだ。主人公は何となく彼が気になって、彼に話しかけたり一緒に帰ろうと誘ったりするようになった。一緒の帰り道で、今まで彼のことを可哀想だと思っていたが、彼は全然可哀想じゃない。もしかしたら自分と彼はいつか結婚するんじゃないかと思い始めた。が、それもつかの間でまた転校することが決まった。転校を先生に発表された時、今までとは全然ちがう涙が止まらなくなった。
「迷子」
主人公の家も、隣の家も二人姉妹だった。しかし、隣の家に急に赤ちゃんが現れた。どうも隣の家のお父さんに愛人がいて、その愛人の子供らしい。その子供は何もなかったかのように、育っていく。しかし、隣のお母さんは、「ひろみちゃんはうちの子じゃないから、何でも買ってあげるからね」と言い聞かせていた。そしてそのひろみちゃんが迷子になってしまう。夜になり、警察官に保護されて帰ってきた。ひろみちゃんは色んなところに食べ物(お菓子)を埋めており、それを警察官に保護されたようだ。大人になってから、食べ物がなくなって困ったときのために、ひろみちゃんは埋めていたそうだ。
「蝉」
真美に妹か弟ができる。先生はみんなの前でそう発表した。事情をしる友達はそれをからかう。その内一人の男の子から「どうやって子供ができるのか」を教えてもらう。その教えてもらった単語が、蝉の鳴き声のように頭の中で響いて仕方がない。それで、死んでしまった蝉の腹を裂いた……がしかし、そこは空洞だった。
「ひよこの眼」
転校生の男の子の眼に何故か魅かれた。懐かしいような、切ないような。そうして主人公はその転校生のことを好きになる。文化祭の実行委員を二人ですることになり、確約はないが、周りからは付き合っていると言われるようになる。二人は両想いであることを確認し合う。見つめ合う。が、そこで終わり。家に帰ると、転校生の眼は、昔死んでいったひよこの眼と同じだったのだと理解した。死を見つめた瞳。何故そんな風に思ったのか。次の日、学校に行くと彼はいなくなっていた。昨日見つめ合った時は生きたいと主張していた目の彼は、病気を苦に自殺した父に道連れにされたのだと言う。


