『ぼっけえ、きょうてえ』(岩井志麻子/角川書店/角川ホラー文庫)
時は明治。岡山の遊郭で醜い女郎が客に自分の身の上を語り始める。間引き専業の産婆を母にもち、生まれた時から赤ん坊を殺す手伝いをしていた彼女の人生は、血と汚辱にまみれた地獄道だった…。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた……。
岡山の方言で「とても、怖い」という意の表題作ほか三篇。文学界に新境地を切り拓き、日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞を受賞した怪奇文学の新古典。
「ぼっけえ、きょうてえ」
遊郭で語られる、女郎の物語。彼女の母は子潰しを生業としていた。で、彼女自身は母が40を過ぎてから双子として生まれた。母はすぐに川に双子を捨てたが、三日間彼女は生き続けた。姉はどうなったか、イマイチ語られない。そして、女郎の一人が、雇い主の指輪を盗み、自殺していたことも語られる。しかし実はこの女郎が盗ったものであり、それは頭の中に潜む姉が命じたものだった。双子であったが、人面瘡のように頭にくついている。そして、双子の姉はこの男を気に入ってしまった。怖いね、で話が終わる。
「密告箱」
コレラの話。コレラが蔓延して、上司が密告箱を設置した。その担当になった主人公は、やがて皆から忌み嫌われる「おさき」という女に行き当たる。どうにも気味の悪い女であるが、顔は美しい。その女にのめりこむ主人公。そして、妻がそれに気づく。気づいても何も言わない。ある日、おさきの家が火事になり、家族全員死んでしまう。そして、近所の者が、「逃げていく女を見た」という。主人公は「まさか妻が」と恐れる。コレラが下火になったころ、コレラ菌に汚染されているとみられる川で、妻が魚を採っている所を見かける。主人公はすべてを悟る、妻はすべてを知っている。知っていて、遣えるようなふりをして、自分にあの魚を食べさせるのだ。
「あまぞわい」
海みある、干潮になると沈んでしまう岩場のことを「そわい」と言う。漁師の夫がいながらも、教師と不倫してしまう。それを夫に見つかり、教師は締めけ殺される。妻も殴られて気を失う。夫婦でそろって、教師の死体をあまぞわいへしずめに行く。夫によると、この時期は海流のせいですぐには岸に流れ着かないらしい。そしてついに流れ着く。溶けて、魚に食われ、原型をとどめていない。しかし足が悪く、右足が極端に細かったことからその人と分かる。その男の足音は、夫婦の家についてくる。そして女は自分からあまぞわいに向けて足を勧め、死んでしまう。
「依って件の如し」
貧しい農村の娘が主人公。兄と二人だけの兄弟。両親はもういない。父は既になく、母も自殺してしまった。父と母は昔は金持ちだと言った。子供の頃はお手伝いがおり、庭がおり……その話は二人とも同じように話した。そこから少女は、実は父と母が兄弟であり、そして自分の本当の父親は、「父」ではなく「兄」であると分かる。そして兄は「件」という頭が牛の妖怪に魂を売り、変わってしまった。少女は何よりも兄が怖い。


